インスピレーションから、イメージ創作過程の変遷
崑崙に雪ありとおもへ
by Ikuma Wadachi
目に見えるはずの無いものが、ふと視える時がある。
前衛短歌の巨頭と呼ばれた塚本邦雄は、かつて自作で一番好きな歌は何かと聞かれ、「柿の花それ以後の空うるみつつ人よ遊星は炎えてゐるか」だと語っていたことがある。この地球を人間の手による戦火で失ってはならないという彼流の矜持や思想がしっかり歌の根底に流れていると思われた。
その歌人の塚本が、八冊もの句集を出していることはあまり知られていない。句集『断弦のための七十句』の中に、「百合一花崑崙に雪ありとおもへ」の一句があった。西王母の住む不老不死の温暖で豊かな国とばかり思っていた崑崙山にたちまち雪が降りかかり、何度ぬぐい去っても不二の山のように思われて仕方なかった。
過去と現在、未来を行き来するイメージ、自然の美を敬いながらも文明や文化のある空間を求めてエスキースを何枚も描いた。そして、小品のモザイク七宝(24×17センチ)三点を試作した後、三作を複合したような大下図を描き、75×120センチの「崑崙の雪」を完成作品として焼きあげた。自宅で組み立て額装するとかなり大きいのだが、日本現代工芸美術展の会場(東京都立美術館)ではまわりの作品に圧倒されて小さく見えた。
崑崙(1) 崑崙(2) 崑崙(3)
また、2006年、秋の日展に向け構成を練り直し、同形サイズで「崑崙」を完成させた。
崑崙(Konron)
小さな電気炉しか持っていないが、銅板を糸鋸で小さなパーツ200枚に切り分けてモザイク七宝にしてしまえば大きな作品も可能になる。しかし、大きさではなく、「あの作品をもう一度見たい」と言ってもらえるような、記憶に残る世界を描きたいと願っている。